振り込め詐欺との遭遇!(1)


2月6日の未明だった。


深夜に突然、友人から電話が掛かってきた。
うつ病で、不眠に悩む彼から、夜中に電話がくることは度々あったけれど、
その電話は、いつもと様子が違っていた。
彼は、私が電話に出るやいなや、震える声で、ぽつりぽつりと語り始めた。


「何ヶ月か前、ひどく気持ちがすさんでいたことがあって。
その頃、恋人と離れ離れになっていたせいもあって、無性に誰かに甘えたかった。
だからつい、いくつかの出会い系サイトに登録したことがあったんです。
実際に利用したのは1つだけで、
何回かメールやり取りしただけで、結局やめちゃったけど。」

・・・その話は、以前にも聞いたことがあった。
私は、事件に巻き込まれないかと心配になって、解約を勧めたこともあったっけ。


「もちろん、今はもうやってないです!
で。登録しただけで利用しなかったサイトがいくつかあったのを、最近思い出して、
携帯からまとめて、解約手続きをしたんです。
そしたら、その中の1つから、急に電話が掛かってきて・・・。」

友人は突然、声を詰まらせた。
・・・そして。


「登録してからの毎月の利用料や、督促手数料、解約に伴う違約金などで、
26万5000円も請求されたんです。
一括払いでしか受け付けてくれなくて、しかも払わないと解約できないんだって。
・・・今、休職中でお金ないのに。もう・・・どうしたらいいのか。」

電話の向こうで、友人が、泣いているのがわかった。
サイトを利用したことへの後悔や、金策の当てがない焦り、
さらには、
「いつもお世話になっているあなたに、こんな話聞かせて申し訳ないんだけど、
でも、他に誰にも打ち明けられなくて。
あなたにこんな大金借りるのも、申し訳ないと思ってる。
けどもう、どうしていいのかわからなくて!」

・・・友人は、憔悴しきっていた。


一通り、彼の話を黙って聞いてから、私は率直に尋ねた。
「請求額が、高額すぎるよね?その内訳も何だか怪しいし。
ひょっとして、架空請求なんじゃないのかな?」
「だとしたら、本来払う必要のないお金だよ?
気にしないで無視していいんじゃないかなあ?」


・・・けれど。うつ状態の彼の心は、既に極限まで追い詰められていた。
「俺も『高額すぎる』とは思いました。
でも今は、そういう料金システムという規約を、よく読まずに入会した自分が情けなくて。
すさんでいたからと言って、出会い系サイトに走ったこと自体、
彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいで。
・・・彼女とは婚約しているのに。こんな俺じゃ結婚も出来ない。」
「明日また、連絡するって言ってました。
今はただ、電話が来るのが怖い!動揺して、住所と名前教えちゃったし。
もしかしたら架空請求かもしれないけど、もし払わなくちゃいけないとしたら、
どうやっても26万なんて作れないです!」

・・・『無視していいよ』という私の声は、届く余地もないようだった。


ならば。私もソーシャルワーカーの端くれ。
彼の不安をほぐしつつ、正面からサイト側と対決しようじゃありませんか。


まずは彼に、少しでも落ちついてもらわなければ。
後悔と不安に震えたまま、眠れずに一夜を過ごすのは、余りに切ない。
私は、朝になったら、市の消費生活センターに相談することを提案した。
「多分、請求は無視してても大丈夫だとは思うけど、
そこに行けば、有効な対応方法を教えてくれると思うから。
それに。仮にもし、どうしても払わなきゃいけなくなったなら、私が何とかするよ。
それは絶対に約束する。
だから、それまでは何もしなくていい。明日のために、今は寝てほしい。」
ほんの少し、彼の口調から、不安が和らいだ気がした。
「わかりました。あなたがそう言うのなら。
いつも迷惑かけてしまってすみません。ひとまず今は寝ますね・・・。」

・・・そう。今はひとまず、何もかも忘れて寝てくれればいいのだけど。


(つづく)