振り込め詐欺との遭遇!(2)


明けて、2月6日AM9:30。


友人の家に行ってみると、ちょうど消費生活センターから帰ってきたところだった。
相談して、いくらかでも、不安は取り除いてもらえただろうか?
・・・だが表情は、明らかに憔悴しきっていた。
きっと眠れなかったんだろうな。その不安は、容易には拭い去れなかったんだろうな。
彼は沈んだ表情のまま、私を家に招き入れた。


ひとまず部屋に入って腰を下ろし、うつむいたまま、大きく溜息を吐く。
そのまま、しばし沈黙。
・・・おもむろに、私から切り出す。
「で、相談してみてどうだった?」
「明らかに法外な請求なんで、『無視していい』と言ってくれました。
それでもしつこく言ってくるようなら、強気に『払えない』って言っていいって。
・・・問題は、『俺にそれを言う勇気があるか』ですけどね。」

そう言ったまま、深く顔を伏せ、膝を抱えてちぢこまる彼。
・・・まずは、彼へのカウンセリングから始めた。


「今、どんな気持ちなの?やっぱり不安なの?」
彼からの返答はない。うつが強く出ている様子だった。
「そうか・・・何も考えたくないんだね?」
「・・・何も・・・考えたくないです。」
顔を両膝に伏せたまま、ぽつり、と彼が言う。
一刻も早く、この不安から逃れたいのだ。
請求をされるのが怖くて、それから逃れられるのであれば、
お金でも何でも払って、すぐにでも楽になりたいような心境なのだ。


私は、彼が落ち着いてくれるよう、一つの提案を示した。
「わかった。じゃあさ、請求の電話が来たら、私が代わるよ。
消費者センターは、
『払えないって強気に言えばいい』『払わなくていい』って言ってくれたんだよね?
サイトを利用してないのは確かだし、現にお金がないんでしょ?借りられる当てもないし。
そこを強調して、強気に攻めてみるよ。」
「でもまずは、俺から話してみます。
もうじき俺の携帯に、電話が掛かってくる予定になってるし。」


そう話すやいなや、電話が鳴った。サイト業者からだった。
彼も覚悟を決めて、毅然とした態度で出た。


彼は、請求額が高すぎることや、自分がうつで休職中で収入がないため、
払えないことを毅然と伝えた。
すると相手から、何やら提案があったらしい。
・・・話を進めてはいけない気がした。
一旦電話を切って相談するよう、彼に筆談で呼びかけ、事情を聞く。


サイト側の提案は、大雑把に要約すると、次のようなことだった。
「うちの会社が加盟してる保険組合がある。
どうしても払えない顧客がいる場合、そこから補助金が下りる仕組みになっている。
その組合の系列の会社に、部長として名義を貸してもらえるなら、
一旦は代金を一括で払ってもらって、後日手数料だけ差し引いてお返しする。」
・・・明らかに、怪しいと思った。
先日見たNHKのニュースで、リストラされた人が『高収入のアルバイト』という文句に誘われ、
口座を作らされ、あるいは実行犯として、振りこめ詐欺に利用された事件を見た。
・・・この話に乗ったら、彼も犯罪に巻き込まれる!
私は猛反対した。けれど、彼の不安はピークに達していて、断るだけの気力はない。
ならば。
「今度は、私が話してみるよ。どうにか断ってみるから代わって?」
彼から掛け直してもらい、短いやり取りの後、彼から電話を受け取る。
・・・さあ、対決開始である。


(つづく)