演劇串カツの陣!(8)「AOI」完結篇


(前回の反省)
さんざん遅くなってしまったレビューであるが、
「原作の」あらすじ書いてたらどんどん長くなっちゃって、やむなく割愛。
レビューなのに、本編の内容に何にも触れられず。
・・・気を取り直して、ストーリーの流れを追いながら、感想を書く。

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舞台は、カリスマ美容師:ヒカルのサロン。
その弟子にあたる美容師:トオルが、人形を使ってカットの練習をしていると、
ヒカルの彼女:アオイが訪ねてくる。
彼女は先刻病院を退院してきたばかりなのだという。
・・・どこか精神的に不安定な印象のある少女である。


「ヒカルさんはアオイさんを、すっごく愛しているのだなあ」としみじみ語るトオルに、
「あの人が愛しているのは、私の髪だけ」と言い切るアオイ。
その上で、髪のカットを依頼する。
トオル、断りきれず一旦はハサミを入れようとする。
が、ヒカルの落胆する様や、彼の怒りを買うことを考えると、
とてもじゃないが引き受けられず、逃げ出す!
・・・取り残されるアオイ。
ふと、妄想にとらわれるうち、髪を誰かに引っ張られたトラウマまで思い出してしまう。
そのまま、ぐったりと気を失う。


・・・とそこへ、背後からヒカル登場!
出てくるなり、床に散らばった髪の毛を見て半狂乱になり、
トオルを罵倒しながら、かき集め、頬ずりする。
それはまるで、切り落とした髪の毛が、アオイの亡骸であるかのようである。
亡骸を抱きしめるように、髪の毛をかき集め、頬ずりするヒカル。
一方、あわててトオルが、それは人形の髪だと説明すると、
とたんに何事もなかったように、するりと毛を捨てるヒカル。


・・・彼はただの髪フェチではないようだ。
正直私は、その思い入れの異様さに、一瞬引いてしまったのだが、
「髪に込められた意味」というのが、
この物語の「女性観」を読み解くキーワードなのかも知れない。


この物語の冒頭は、こんな感じに、
奇妙な引っ掛かりを余韻に残しつつ、進んでいく。


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ここで、この物語の大雑把なあらすじ。


アオイは精神的に不安定なところがあり、自殺願望をもほのめかす。
その背景には、父親から虐待されたことによる、トラウマがあるようだ。
そのせいか、相手を完全には信じきれず、
ヒカルが「心が通じ合えた」と思った瞬間、突き放すような態度を取ることもしばしば。


一方で、ヒカルにもトラウマがある。初体験の相手:人妻の六条である。
彼女との出会いは、まだ彼が駆け出しの頃。
若かった当時のヒカルにとっては、六条の夫に美容師として育ててもらいつつも、
その力や権力への憧れがあり、
また大人の女への幼い憧れのようなものも、六条に対し感じていた。
六条にとっても、夫よりは若くて気高くて、将来に向かって伸びようとしているヒカルに、
強く惹かれるものがあったのだ。
だから、ヒカルに自分の手の中で、より気高く美しいものに育ってくれることを望んだ。
さらには、自分を支配する夫から自分を自由にしてくれる、「共犯関係」のようなものまで。
・・・二人は不倫に陥り、数えきれないほどセックスを重ねた。
けれど、ヒカルにとってそれは、自分を束縛する存在が六条に代わっただけ。
しかも束縛は、よりしなやかに、纏わりつくように、厄介なものになっていく。
いつしかヒカルは六条に、女性コンプレックス的な嫌悪を抱くようになった。
「愛してる」と言われることさえ、嫌がるのである。


さて、その六条が突如、ヒカルのもとに現れた。
しかも、アオイが情緒不安定になり、フラフラと姿を消したのと入れ違いに。
そして六条は、自分がかつていた場所に、アオイが居るのが気に入らない様子。
・・・ヒカルは直感的に「アオイの正気を奪い去ったのは、六条だ」と感じた。


ラスト付近では、その一連の六条とのやり取りでさえも、
ヒカルの妄想だったらしいことが暗示される。
もしかしたら、午睡の白昼夢の中で、
六条自身の妄想とヒカルの妄想がシンクロしていたのかもしれない。


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劇中何度も、女性の髪をもてあそぶヒカル。
・・・髪に込められた想いとは何なのか。


ヒカル自身のセリフには、こうある。
「髪は本人のDNAを宿している、本人の分身で、体の一部」
「自分は過去に付き合ってきた女性の髪をコレクションしている」
「自慰をする時は、誰かの髪を使ってする」
「髪の感触を味わってるだけで、勃つ」
・・・引く。


もとい。彼にとって髪は、性的シンボルなのである。
髪を好きにするというのは、身体を好きにするのと道義だ。
だから、トオルが勝手にアオイの髪を触るだけで、烈火のごとく怒るのだ。
更に言えば、彼に肉体関係を求めている六条は、ヒカルが髪に指を差し入れただけで、
エクスタシーを感じてるような、ウットリした表情を見せるのである。
逆に。アオイが度々トラウマに陥るたび叫ぶ、「髪を引っ張らないで!」というセリフには、
性的虐待の匂いがする。
まして、クライマックスで剃髪してしまう彼女は、もう二度と性的にもてあそばれたくないと、
ヒカルとの関係さえも断絶してみせるかのようである。
・・・極端だが、不敵だ。

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ただ。欲を言えば、
序盤のキャラ立てが、ややステレオタイプに感じたのが、もったいないなあと思う。
ヒカルはカリスマ美容師で、不敵で自信家な感じは充分伝わるのだが、
そこを強調しすぎると、「変態でヤな奴」で終わってしまう。
不敵なカリスマの背景には、
「常人には考えも及ばないような、独自のポリシー」というものが根底にあるはずで、
実際、中盤でそこをキッチリ抑えていたからこそ、ラストの展開に衝撃を感じられたのだ。
なので、「前半、キャラを作りすぎていないかなあ?」と、ちょっと気になったのである。


中盤のヒカルと六条の長ゼリでは、
「長々と想い入れを語ったのに、直後、相手にあっさり否定される」
というパターンが繰り返されたように思う。
そのため、見てるうちに慣れてしまい、クライマックスの直前まで淡々と見てしまった。
・・・集中、途切れてました。すみません。


余談。髪を巡る話も、もちろんエロティックなのだけれど、
しっかりベッドシーン(イスだけど)もありまして・・・。
お子ちゃまな私は、最前列で見ていて、何だか赤面しっぱなしでした。(照)


(完)