夏目房之介さん蔵出しトーク・後篇


(前回のあらすじ)
2005年9月30日、六本木ストライプハウス・ギャラリーにて、
夏目房之介さんのエッセイ「おじさん入門」発売記念トークショー
「せつなくて楽しいおじさんになる方法・質疑応答篇」が行われた。
冒頭30分は、夏目さんによる「おじさん観」について、雑談風トーク
以降は、会場のお客さんからの質問に答えつつ、身近なエピソードを披露して頂いた。


以下、当日のメモより、その大まかな内容をご紹介。
・・・夏目さんの文体よりも、私の文体に近くなってますが、どうかご容赦を。
注:本文中の「主語」は、基本的には「夏目さん」です。ご了承下さい。

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●「楽しいおじさん」になる秘訣とは、楽しい事を見つけることでしょうか?
自分はバイク乗りなのですが、
ツーリング仲間のおじさん達が、いずれも面白い人なのです。
夏目さんが今楽しんでることは何ですか?

(30代くらい?女性)


楽しいことは見つけるべきですよね。
・・・「どうやって見つけるか」ということは、あまり意識せずにね。
楽しい人の周りにいると、楽しい人が集まってくるし、楽しいことを見つけやすい。
(ここで、エッグファームズでの、常連さんとのやり取りを紹介して下さったのですが、
残念ながら思い出せず。
多分パーティーのことを語ってらしたと思います。)
些細なことでも楽しもう。



●「マンガは中学で卒業」と言われてた時代も、
マンガを読み続けていたという夏目さんですが、
当時は、どのような思いで読んでいたのですか?肩身が狭くはなかったのですか?

(20代前半くらい?男性)


・・・そりゃ当時は、肩身狭かったですよ?(ちょっとムッとした感じ?)
実際、中・高校生の頃は、こっそり読んでました。
同級生はほとんど、僕がマンガを描くのも知らないでしょう。
・・・小学校の時は、皆に「マンガのなっちゃん」と呼ばれてたんだけどね。


というのも、読んでいたのが「子どもマンガ」だったから。
当時は今ほどマンガが分化されていなかったので、
巨人の星」でさえも、「子どもマンガ」の扱いだったんですよ。
今のように、各世代別に雑誌が分化されてて、
「ジャンプ」が幅広い年代に読まれるようになったのは、80年代以降の話です。
「大学生がマンガを読むのか」と取り沙汰されたのは、「あしたのジョー」の頃から。
・・・その頃は「マンガなんか読むのォ?」と言われつつ、
「(小声でボソッと)・・・読まなきゃ、しょうがネェよな?」
と言いながら読んでました。
マンガから一度卒業した人が、大学生になって戻ってくるというのが、
当時は圧倒的に多かった。
・・・だから、マンガ評論やってる人の多くが、ずっとマンガを読み続けてるからといって、
同世代の皆がそうだったわけじゃないんですよ。


大学の頃、1年先輩の何でも知ってる人から、
「マンガは、男子一生の仕事じゃない!」と言われました。
・・・さすがにカチンと来ましたね。
当時はすでに、「一生の仕事にしてやる」と思っていたから。
でもそれが、当時の一般的な見方。
その前の世代は、「小説は〜」「映画は〜」って言われてたわけだしね。



●自分はもうじき30で、「おじさん予備軍」だと思っていて、
自分が「おじさん」になることを気にしています。
夏目さんが若い頃見てきた「おじさん像」と、おじさんになった自分とのギャップは?
自分が「大人になったな〜〜〜!」と思ったのは、どんな時ですか?

(20代後半・男性)


・・・失礼ですが、お年と結婚歴は?
あ、20代で未婚ですか。


まず、結婚して親になるのと、大人やおじさんになるのとは違う。
おじさんは、なろうとしていく型があって、なっていくもの。
親は、なろうとしなくても、子どもが出来ればなってしまうもの。


若い頃のおじさん像は、「カッコイイ」でした。
身近にいた人達がカッコ良かったから。(筆者注:「あっぱれな人々」参照)
今、自分がおじさんになってみると、
確かに「だらしなくなったな〜〜〜。」と思う。
・・・思うけど、ラクになった。
若い頃は、出掛けた先で前のファスナーが全開だったことに気付いた時、
ずぅ〜〜〜っと一日ヘコんでいましたが、
今はそれほど気にしなくなりました!
東京だと、今日すれ違った人と、もう一度会う可能性は低いしね。
・・・前は、開けっぱなしというわけじゃないですけど。


親になると、子供の見方が変わってきます。
昔は子供がお店に入ってくると、舌打ちして、
「こういう店に連れて来るなよ・・・。」と思った。子供キライだったから。
・・・でもね、子供が嫌いなうちは、自分が子供なんです。相対化出来てないから。
若い頃は、「あいつら、泣けば思い通りになると思ってやがる」と思ってた。
自分がイヤな子供だったから。
けど、今では、エッグに赤ちゃん連れのお母さん達が来ると、
気がついたらあやしちゃってます。「あぶぶぶぶ〜〜〜!」とか言って。
・・・変なおじさんではあるけどね。


子供好きになったのは、自分に子供が出来てから。僕が24歳、妻が23歳の時でした。
でも長男には、自分のコンプレックスを見出してしまって、
ずいぶん理不尽な怒り方をしてしまったと思います。
・・・何しろ、こっちも親になりたてだから。その分長男は、たくましくなった気がする。


次男が生まれたのは、30代の時だから、ある程度こちらも余裕があるんです。
仕事から帰ったらすぐ、まだ焦点の定まらない次男の顔を見に行ったりしてね。
・・・赤ちゃんてね、目の前で指を動かしてやると、
それを目で追うんじゃなくて、動き終わってから、そっちを見るんです。
そういうことを見つけては、面白がってた。


ある時仕事先に、
「次男が自宅のそばでダンプにぶつかった」という連絡が入った時、
僕はパニックになって、2駅分の距離を走りましたね。自分でも驚いたけど。
幸い次男は無事で、後で事情を聞いたら、
「運転手がブレーキをかけてくれて、止まったダンプに、頭をぶつけてコケた」
という事だとわかって、ホッとしました。
おかげで、次男はかわいがることが出来たけど、その分パワーがないような気がします。



●自分はマンガ評論を読むのが好きです。
好きな作品を、評論家がどのように評してくれるのか、読むのが楽しみなのですが、
一方で、「自分も表現する側になってみたい」とも思います。
どのようにしたらなれますか?

(50代後半・男性)


・・・質問の前半と後半で、内容に開きがあるような気がしますが。
アウトプット(表現)する側になりたいんですか?


まず、インプット(読む)しか出来ないからといって、それが悪いわけではありません。
知り合いの主婦の方で、大変ホメ上手な人がいます。
その人は、相手の話の受け方がすっごくうまい。
話し手を持ち上げるのが上手いし、
話し手が予想しないところで、その話を掘り下げて見てくれて、
話し手も「俺って、天才?」と思えてしまう。
・・・こういう人は、編集者に向いていますね。
その人は、マンガ研究にも参加してくれて、すっごく能力のある人なんだけど、
「私はあくまで、一介の主婦です」というスタンスで通されているんです。


また、インプットし続けることで、アウトプットになるものもあります。


マンガ研究のテーマとして、時間があれば誰かやってみて欲しいのが、
「各ページにあるコマの数を調べて、1ページ平均を割り出す」というもの。
あと、以前ある大学の研究者がやったのが、「心の中のセリフと吹き出しとの対比」。
それによると、「ガラスの仮面」で主人公が喋らなくなるのは、舞台に立った時だけで、
その時は絶対、他のキャラが喋ってくれているんです。
あるいは、「視線誘導」。
1ページごとにコマとセリフの配置を追っていくと絶対、視界に入りにくいスペースがある。
そこに作者の意図が、どう盛り込まれているのか、読み取ると面白いですよ。


(完)