「原画’(ダッシュ)展」


去る8月29日、新宿・紀伊国屋書店に、
「原画’(ダッシュ)展 少女漫画の世界 PART4」を見に行きました。


会場は4F。
裏口から階段を昇っていくと、2階に巨大な鬼太郎のパネルが!
しかも良く見ると、お馴染みの仲間達を引き連れて、
広重の「東海道五十三次」のパロディを、飄々と演じているではないですか!
実は、水木しげるさんの「妖怪道五十三次」の特設ブースだったのです。
・・・ついつい脱線して、画集と絵ハガキを買ってしまったよ。


そんなわけで、半ば妖怪に導かれつつも、会場に辿り着く。
会場の紀伊国屋画廊は、真っ白い壁に囲まれた10m四方ほどのスペース。
売り場から少し離れた静かな空間である。
入口前には細長いロビーがあり、主催者のお一人である竹宮惠子さんの原稿が、
ガラスケースに展示されている。
・・・少女マンガにはとっても疎い私は、
竹宮さんの作品を拝見したのはこの時が初めてだが、
印刷に出ない余白部分に書かれた、様々な指定の書き込みや、
タッチの流麗さ、スピード感に、ライブ感を感じ、
会場に入る前からやや興奮ぎみ。


ところで。「原画’(ダッシュ)」とは?
・・・いささか乱暴に言ってしまえば、「ものすごく精巧なカラーコピー」である。
とはいえ、もちろん、ただのコピーではない。
コンピューターに原画を取り込み、
作者本人が納得のいくまで色調整を重ねて作られたものなのだそうで、
作者の生々しいタッチが見て取れるほどにまで、
「原画の復元」としてのクオリティにこだわって作られている。
・・・その精巧さは、間近で見ても、そのタッチの迫力に息を呑むほどだ。


ではなぜ、「原画展」ではなく、精巧な複製を展示の対象としたのか?
会場入口に掲示されていた、竹宮さんのコメントには、こうある。

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マンガ原稿とはそもそも印刷媒体で生きるもの。
カラー作品のほとんどすべてがごく薄い水彩かパステルで彩色されており、
退色の恐れがあるため長い期間の展示に堪えません。
(中略)
そんな折、京都精華大学で教壇に立つことになり、
後進の育成とともに研究の一環としてマンガ原画の保存と公開のため、
原画に極めて近い「原画’」という作品を生み出しました。

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目的は、マンガ原画の「保存」と「公開」。


作者にとって、自ら手掛けた世界に1枚しかない原画は、
大事なかけがえのない財産で、決して手放したくないのが本音だろう。
・・・退色の心配だけでなく、原画が展示会場から盗難に遭うことだってある。
一方で、ファンや研究者、そしてマンガの将来を担うクリエイターにとっては、
関係者しか見られないそのタッチを、出来ることなら直接見たいという要望がある。
それまでは不可能だった、2つのニーズの両立を、
出来る限りに叶えてくれた、この企画の意義は非常に嬉しい。


・・・そして。
何と!いずれはこの「原画’」を、販売して下さる予定だとか。
原画は本来、著作権によって、
「売買出来ない作者固有の財産」とみなされているものなのだそうです。
作者本人の好意で譲り受けるにしても、「贈与税」が発生することもあるそうで。
それが、こういう形で、オリジナルに近いものを手に取れるとしたら、
それはものすごく画期的で嬉しい!


さて。今回展示されていたのは、竹宮さん作品の他、
高橋真琴さん、あすなひろしさんの作品。
・・・もちろん、少女マンガに疎い私にとっては、いずれも見るのは初めて。
ですが、そのタッチの繊細さ、淡く上品な色使い、情緒あふれる画面構成に、
心を奪われました!
ホワイト修正液で丹念に描かれた、細かいレースの模様とか、
流れるような髪の毛の表現とか。
・・・一瞬、それが複製であることを忘れてしまうほどの迫力が、
そこにはありました!
特に、あすなひろしさんの、細い細い線!
心情描写を巧みに織り込まれる、背景や、視点の切り替え!
わずか数枚の原画’に、すっかり魅了されてしまいました。
・・・会場で、30分近く長居した挙句、
あすなさんの作品集を買ってしまいました!しかも4冊!