(改訂版)国宝「信貴山縁起絵巻」の大宇宙



先日の記事でご紹介した、夏目さん出演の番組、見ましたよ!


冒頭から、絵巻の紹介をする常田富士男さんのナレーションが。
そこへ5歳の姪が、「これなあに?」と画面見て聞くので、
「ん〜〜〜?昔話。」と返しつつ。


物語は、信貴山の開祖:命蓮上人にまつわる逸話。
ある時は、不思議な力で金色の鉢を飛ばし、米蔵を軽々と宙に浮かせて、
山深い庵まで運んでしまう。
またある時は、病に伏せる帝の夢枕に、「剣の護法」なる不思議な少年を遣わし、
病を払ってしまう。
そしてクライマックスは、上人の姉が、遠く善光寺から上人を探しにはるばる訪ね歩き、
最後は東大寺の大仏のお告げを得て、再会を果たす。
・・・それぞれの逸話が、霊験あらたかな上人の伝説というだけでなく、
コミカルな登場人物達や、ユニークな描写がふんだんで、
楽しく読めてしまうのだった。


番組では、信貴山のふもとの小学校で、
子ども達に、物語についての予備知識がない状態で、
絵巻のコピーに、思い思いにセリフや擬音を書き込んでもらっていた。
そのセリフが、けっこうTPOに合ってて、面白かった。
説明がなくても、登場人物の視線や表情で、場面の意味って伝わるものだし、
確かに絵巻には吹き出しはないけど、ザワザワと話す声が聞こえてくる気がする。
(そういえば、昔のゴジラ映画で吹き出しとセリフの付いたものがあったけど、
そんなのなくても、ゴジラは動きだけで、かなり感情を伝えていたように思ったことを、
ふと思い出した。)
特に、第2巻の「剣の護法」の登場シーンでは、
体中に身につけた剣が触れ合って、不思議な音をたてながら、
「ゴゴ〜〜〜ッ」と風を切って、一瞬のうちに飛んでくるような、
音やスピード感まで、子ども達は感じ取っていた。
・・・絵巻そのものは、静止画のようだけど、
読み手はそこに、物語の筋だけでなく、
音や動き、声もふんだんに感じ取っていたのだなあ、と思った。


さて。夏目さんの出演は、第1巻「飛蔵の巻」についてのパート。
「マンガ・コラムニスト」と紹介する部分のテロップでのみ、
さり気なく、
「マンガの起源が絵巻物にあるとする見方には批判的」
と触れてあるのが気になったのだが。
(確か夏目さんブログでは、それこそが夏目さんの主張と言われていたような)



登場シーンで、巨大絵巻に降り立つ夏目さん。
それを見た姪が一言。
「この人、何で小さくなっちゃったの?」
・・・確かに、そう見えるなあ。しかも、靴下姿なのがキュート。


視線誘導の解説は、わかりやすく、面白かった。
絵巻物の場合、巻物を広げながら、右→左へと見ていくのだが、
画面いっぱいに絵が描かれていた場合、読み手はまず、人物に目が行くのだそうだ。
そこから、その人物の視線を追い、さらにその先に人物がいれば、その視線を追う。
視線が塀に突き当たると、そこから視線は塀に沿って角度を変え、
また、同じ方向を見つめる群衆の中で、一人逆を向いている人物がいれば、
その視線を追う。
・・・こうして、絵巻を広げていくうち、
視線は、蔵から転がり出たらしい「鉢」に辿りつく。
そこに、周囲からの視線を集めることで、
読み手は「この物語の主人公は、どうやらこの鉢らしい」と気付くのだ。


夏目さんブログによると、この撮影の時、実は、
「マンガの起源は絵巻物ではない」
ということを検証するため、
絵巻物をマンガのようにコマ割りしてみたり、
あるマンガを絵巻物風に描いてみたりして、比較したのだそうだ。
そのシーンは、残念ながらカットされてしまったそうだが、見てみたかったなあ。


近畿地方には、他にも、
「鉢が飛んできて、金持ちから米などを召し上げ、貧しい者に与える」という伝説が、
いくつもの神社仏閣に伝わっているそうだ。
・・・そのいくつかを訪ねる夏目さん。
その印象をマンガに描く。



鉢が飛ぶのは、1年もの断食などの苦行を経て、
頭に鉢を載せた龍を自在に操れる術を身につけたからで、
その術を行う上人の、ありがたい霊力の象徴なのだそうだ。
けど。夏目さんも番組中で言っていたが、この鉢、
真面目に年貢米を運ぶ業者から、米を巻き上げたり、
お供えをしたのに、「もっとよこせ」と言わんばかりに居座ったりと、
かなり人間くさいというか、はた迷惑な存在である。
どっちかと言うと、単なる追いはぎじゃなかろうか?
・・・でもそこが、この話の楽しさなんだろうなあ。


解説の締めくくりの夏目さんのコメント。
「これは、確かに貴族向けではあるけど、そんなに敷居が高いものではなく、
世俗的でワクワクするようなエンターティメントで、
ビートルズ以降のロックンロールみたいな気がする」
「だから、これを描いてた人は、そういうノリでやってた気がする」
「だから、人によっては怒る人もいるかもしれないけど、
もしその作者に挨拶するとしたら僕は、『Yeah!』って感じで挨拶したい」
・・・それを受けて、第1部のラストは、
グラグラ揺れてきしみながら浮かび上がる米倉のCGのBGMに、
クイーンの「We Will Rock You」がかかっていた!
見ているこっちも、「Yeah!」って叫んでました。
・・・絵巻物に向かって。