【改訂版】ボックスアート展


静岡県立美術館で開催中(〜5/20)の、
「ボックスアート展」を観に行った。
http://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/exhibition/box-art.html


「ボックスアート」とは、プラモの箱絵。
実は、箱絵のルーツは、昭和初期に創刊された、
少年倶楽部」などの男の子向け雑誌の表紙や挿絵なのだそうだ。
戦時色が強まってきた時代を背景に、
機械・乗り物好きな男の子ゴコロを刺激する題材として、
あるいは、戦意高揚のプロパガンダとして、
日露戦争満州事変などの、実際の戦場での場面や、
当時の最新鋭の兵器が、
当時の売れっ子画家の手によってリアルに描かれ、
子どもたちの人気を集めた。
その中の一人に、後に松本零士にも影響を与えた、小松崎茂がいた。

一方、当時の模型は、少年誌の付録の紙製組み立て式のものの他は、
「ソリッド式」と言って、
平らな板や棒のままのパーツを、設計図を頼りに自分で削って、
パーツの形に仕上げ、それから組み立てるものが主流。
パッケージも、箱ではなく、駄菓子屋にあるような薄い紙袋に、
商品名をデカデカと書いただけのシンプルなもの。


それが、昭和30年代にプラモが普及し始め、模型ブームが起こると、
戦前活躍していた挿絵画家たちが箱絵の原画に起用され、
戦車や飛行機、レーシングカー、果てはSFチックな乗り物まで、
鮮やかに描き出した、というわけ。


中でも、小松崎さんの箱絵は、
緻密で躍動感があって、見ていて惚れ惚れする。
戦前の作品も、写真以上の臨場感があってステキだけど、
戦後の箱絵のうちの一作、
旧日本海軍試作機「震電」(写真2)なんか見てると、
「リアルな兵器」というよりは、「カッコいい生き物」みたい。
描き手が楽しんで、生き生きと描いてる雰囲気が伝わって来るのだ。


時代の変化に伴って、模型のジャンルも、
宇宙船・特撮・アニメと広がり、
箱絵のアングルやデザインが凝ってきたり、
画法も、油絵・水彩に加えて、CGも多くなってきた。
最近では、「完成品のイメージ」というよりも、
「塗装や装飾の際の資料」という要素が濃くなっているようだ。


私の手元にある、キュベレイの箱絵を例に比べてみよう。
20年前の1/220の時は、何だかカクカクしていて、
「アニメの絵と全然違ぁうッ!こんなのキュベレイじゃない!(泣)」
と愕然としたものだったが、
8年前のHG版では、アニメ版からセル起こしされた絵が使われたし、
近年発売されたMG版では、CGによって、
アニメとほぼ同じ色・型で、よりリアルに立体的に描かれている。
ファンとしても、違和感がないどころか、
華麗に舞い飛ぶようなキュベレイの特徴を、実によく捉えていて、
「おお!これぞキュベレイ!」
と、ホレボレする仕上がりになっている。
それこそ、描き手自身がアニメ版を熟知していて、
その中でのキュベレイに、本気で惚れこんでくれているような。
・・・そのくらい、愛が込められた箱絵なら、
例えば店頭で箱絵を見て、そこで初めてキュベレイを知った人でも、
「カッコイイ!これ、作ってみようかなあ?」
と思うこともあるだろう。
そういうのも、ファンとしては嬉しいのである。


現在でも、箱絵見て「次は何を作ろうかなあ?」と選んだり、
制作意欲を刺激されるモデラーは多いと思う。
時代は変わっても、箱絵の役割は未だに大きいってコトです。
・・・箱絵、奥が深いね。


ところで。この展示には、
静岡県内に工場を置く大手模型メーカー、TAMIYAとバンダイも、
当然後援に名を連ねているのだが、
展示ブースには、圧倒的にTAMIYA製品が多かったような。


会場には、箱絵の原画が、年代ごとに展示されていて、
それぞれの展示ブースの中央には、実際のプラモの製品が、
外箱はもちろん、パーツも組み立て前のままの状態で、
ガラスケース内に飾られていた。
見る側が、原画と完成デザインを見比べながら、
「ああ!あのプラモの絵だったんだ〜〜〜!」
「そうそう!こんな感じだった。」
と、当時の気分に戻ったり、
箱を開けたときの、何とも言えない「うわぁ!(嬉)」という気持ちを、
思いがけず追体験できたりする、粋な演出である。


そして、随所には、プロモデラーの手による精巧なジオラマが!
幅広い年代層に人気があるからか、戦車モノが多かったけど、
会場の出口付近には、ガンプラモノも!
その1つ、「楽園」と題されたジオラマには、
南国の砂浜に打ち上げられたらしい、MG版アッガイが!
しかも、全体が錆びていて、ボディも腐食が進んで、
所々穴が開き、内部まで錆びているのが見える。
・・・「腐食塗装」というのもあるんですねぇ。
でも、朽ち果てていてもなお、アッガイかわいかった。


客層は、郊外の美術館が会場ということもあり、やや年齢層高め。
30代後半以上と見られる男性が、一人で来ているのが多かった。
さすがに、女の子一人で来ているのは、私だけだったけど。
ほぼ同年代のカップルも見られたが、
意外だったのは、70代の上品な感じのご夫婦が、
丹念に見てらっしゃったこと。
「ご主人は、元TAMIYAの設計士だったとか?
それとも、戦前の模型ブームの頃からの、模型ファンなのかしら?」
とか、思わず妄想してしまったよ。
・・・いえいえ。こうしたオールドファンがいることが、
文化として確立している証しなんです。<私の持論


で。帰りに図録を買おうと売店に寄ってみたら、
何と、山のようなプラモが!(写真3)



それも、TAMIYAとバンダイの、いずれも結構新しいモデル!
TAMIYAに至っては、
Tシャツとかリュックサック、ピンバッチなんかも売ってるし!
・・・思わず、売り場の人に言っちゃいました。
「私、ここの美術館の売店がプラモ屋みたいになってるの、
初めて見ました!」
売り場の人も言ってました。
「そうでしょう?私も初めてです。ここでプラモ売ったの。」
・・・面白かった〜〜〜!(笑)


かく言う私も、店員さんから、
「女の子で、プラモ作るんですか?」
と、珍しがられましたけど。