夏目房之介さん講演「漫画・MANGA・コミック」(3)


夏目さんの講演はつづく。

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●戦後マンガの青年化
戦争のあった国では、どこでもそうだが、戦後ベビーブームが起こる。
そのベビーブーマー世代が、消費の大きな力の一つとなる。


日本では、戦後の高度成長に伴い、第1次ベビーブーム世代を中心に、
「若者文化」(=カウンターカルチャー)が成立。
その世代の読者向けに、日本マンガは、
思春期以降のテーマをうまく取り込んで行った。
これが、「日本マンガの青年化」。
マンガと少し遅れて、アニメも青年化していく。



●日本マンガ・アニメが海外へ
1970年代頃から、日本マンガが東アジアで、
正規契約なしに翻訳・出版され、
いわゆる「海賊版」が出回るようになる。
一方で、この頃は、日本の出版社側に、
正規契約の手続きをする体制が出来ていなかった。
そのため、海外の出版社からすれば、
「正規契約したくても出来ないので『海賊版』で出版した」
という事情がある。
それが、「海賊版」の氾濫を助長した一因にもなっている
この状況は、日本の出版社側が正規契約の体制を整える、
1990年代になるまで続いた。
それまでは、「海賊版」では、
日本のマンガが様々なアレンジで描かれていて、面白かった。
いろんなマンガの登場人物が同居したものがあったり、
一つの雑誌に、「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」の作品が、
まとめて載ってたり。


ところで、「海賊版」と「模倣版」は違う。
「模倣版」は、日本のものとそっくりなものを指す。
海賊版」は、双方の国に著作権法があって、
しかも著作権法について国同志の契約があって、初めて成立するもの。
なので、著作権法がなければ「海賊版」とは呼べず、
「いわゆる『海賊版』」という呼び方をすることも。


80年代になると、欧米ではテレビの多チャンネル化が進み、
番組の枠が余る現象が出てくる。
その穴埋めのための安いコンテンツとして、日本アニメを放送していた。
当時それを見ていたファンが、
90年代に入ってから、その原作のマンガを読むという、
「後追い現象」が起こった。



●「日本風マンガ」は、日本産とは限らない
(図版2)

これは、アメリカで出版された、マンガのカタログ。
絵を見ると、一見日本マンガ風の絵柄・様式だが、
実は日本マンガの様式を真似て、他の国の人に描かせたもの。
日本人だけしか、日本マンガを描かないのではない。








これは、ちょうど「ジャズ」に似ている。
今では信じられないかもしれないが、60年代には、
「ジャズは黒人だけのもので、黒人にしか演奏できない」
という議論が、本当にあった。
白人の優れた演奏家が出てくることによって、
「黒人だけのものではないんだ」
ということが認識されるようになったが、
それまでは、本気でそう語られていた。


ローカルなものが世界に広まって、それぞれの国でローカライズされ、
また世界に広がるということもある。



(つづく)