伽藍博物堂「たまくら」(2)


さて、本編について。
まずはストーリーを大雑把にご紹介。

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舞台はごく普通のマンション。
そこに住む新妻:沙耶香(さやか)は、妊娠六ヶ月目にして産気づき、
何と、巨大なタマゴを産んでしまった!
慌てふためく沙耶香と、夫の徹(とおる)。
だが主治医は、
「あと4ヶ月したら、普通の赤ちゃんが、殻を割って出てくるから」
「東北でも事例があったみたいだし」と、
あくまで飄々と、注意事項を2〜3説明して、
マニュアルを置いて去っていく。
信じられないながらも、どうにか事実を受け止めることにした夫婦は、
タマゴがかえるまでは、と、このことを二人だけの秘密にすることにした。


その矢先、突然、沙耶香の両親が訪ねてきた。
両親が動揺するからと、妊婦のフリをしてまで、必死にタマゴを隠す沙耶香。
しかし、ふとしたはずみで、タマゴが見つかってしまう。
意を決し、事実をありのままに話す沙耶香。
・・・予想通り、激しく動揺する両親。
混乱しつつも父は、「事実なのだから」と腹を決め、受け入れることにした。
だが母は受け止められず、拒絶するようになる。


生まれてくる子はどんな子になるかと、早くも妄想が駆け巡っている夫:徹。
タマゴの世話をしていくうちに、「父親」という自覚が芽生えてきたらしい。
そんな徹とは対照的に、沙耶香は、実は戸惑っていた。
産む前はお腹の中で動いていて、その存在を実感できた我が子が、
産んだとはいえ、まだタマゴの姿で、顔も見えないこともあり、
まだ産んだという実感が湧かないという。
「あと4ヶ月経ったら、普通の赤ちゃんとして産まれてくるんだから」
と徹に諭されるが、それまでのモチベーションの保ち方が難しいらしい。
かといって、我が子を好奇の目から守るため、
タマゴを見られたとき「お守りです」と嘘をついて隠すのも、
自分の子をモノ扱いしたようで、気がとがめるし。
混乱している沙耶香の前に、またしても主治医がひょっこり現れる。
「タマゴを抱きかかえれば、愛着が湧いてくる」とのアドバイスに、
戸惑いつつも、ラッコのポーズでタマゴを抱く沙耶香であった。


そんなある日、マンションの住人が、どこからかタマゴの存在を聞きつけた。
「危険なモノが産まれるのでは?」と管理人をあおり、留守中に上がりこみ、
タマゴを奪おうとする住人!巻き込まれる管理人!
タマゴを守るため、ハッタリをかましつつ、迎え撃つ沙耶香、徹、そして父!
果たしてタマゴの運命は?
生まれてくる子は、男か女か、それとも鳥なのか?
そして母は、タマゴ孫と向き合える日は来るのか?

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日常の延長に、ほんのりSF(=すこし、フシギ)テイストなお話で、
そのほのぼのした雰囲気は、「ドラえもん」に似た感じ。
随所に笑いを織り交ぜつつも、
胎児・赤ちゃんとどう向き合っていくかを、
観る側に考えさせる作品に仕上がっていた。


作品中の事件に対して、
それぞれの登場人物の捕らえ方は、男女でハッキリと分かれる。
男 → 慌てるものの、あるがままを受け入れる
女 → 受け入れようとするが、生理的に違和感が強く、受け入れられない


これは、男性である作者が、
「そもそも出産に対し、男は何も出来ない」という距離感を持っていることが、
背景にあるように感じる。
何も出来ないからこそ、産まれてきた以上、
それを我が子と受け入れるしかないのだし、
自分が産めない分、育てる時には、出来る限り関わりたい、というような。
・・・作品中、徹が、子どもを(勝手に)女の子だと思い込んで、
「大きくなったら、あんなこともこんなことも」と妄想したり、
「でもいつか、
『お父さんとお風呂に入らない』とか言われちゃうんだ」とスネたりするのは、
その現れじゃないかと思う。
父も、共稼ぎの娘夫婦や、タマゴを受け入れられない母の代わりにと、
休職中とはいえ、実にかいがいしくタマゴの世話をしに来るし。
あっさりと「タマゴ=子ども・孫」と受け入れ、
かなり早くから育児参加をするその姿は、理想的なほどだ。


一方で、男側があまりにもあっさりと受け入れる反面、
「子を産める性であるからこそ表出する、女性側の違和感」
という部分に、リアリティが求められることになる。
ポイントは、沙耶香と母のリアクションである。
徹と共にタマゴを守ろうとしつつも、独りになるとやはり違和感に悩む沙耶香。
頭では理解しつつも、現実を直視できず、遠ざかってしまう母。
・・・その母の苦悩を、もう少し見てみたかったなあ。
父のセリフで語らせてしまうのではなく。


沙耶香役:山下麻衣さんの、戸惑いながらも気丈に頑張る姿が、凛々しかった。
徹役:松下力さんは、状況に翻弄され、時にあしらわれる、ちょっと三枚目な役。
役柄のためか、序盤テンションが空回り気味に見えたが、
真摯に妻・子を支えようとするやさしさ、素直さが見て取れて、好感が持てた。
父役:滝浪倫邦さんの、自然体のとぼけた感じがいい。
去年の「埋もれた楽園」でも感じたことだが、
「日頃は女性に主導権を握られているが、
実は包容力があり、理解ある優しい上司(あるいは父)」
という役柄が、本当に似合う人なのだ。
それが自然体で演じられるあたりが、お人柄なのかなあ、と思うファンです。
そして、主治医役:おおいしあきよさん。
その出で立ちは、ヨレヨレの白衣をだらりと羽織って、
長い髪をボサボサに前に垂らし、無造作に頭上でまとめ、更に鉛筆を刺すという、
見事な浮世離れっぷり。
しかも、神出鬼没で、どこからともなくスススッと、音もなく現れ、
いきなりどこでも、飄々と診察(=解説)を始めてしまう。
・・・その姿、妖怪でした。大好きです。